2016年05月10日

妊娠と静脈血栓・塞栓症B

熊本地震から3週間が経ちました。被災地の復興が進む中で、血栓・肺塞栓症による地震関連死の報道が、現在も散見されます。車中泊同様に、避難所生活自体も血栓症のリスクとなるため、一刻も早く被災者の方たちが元の生活に戻れますよう、心より祈念しております。

今回は、血栓・塞栓症の予防法や地震との関連について解説を加えます。

5.どうすれば予防できるのか?
 妊娠中の血栓症は悪阻(つわり)の悪化で水分摂取が困難な時期と、分娩後(特に術後に安静臥床を余儀なくされる帝王切開を受けられた方)に多いと言われています。妊娠週数がすすむと妊婦さんは生理的にも「むくみ」やすくなりますが、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)を発症した妊婦さんはさらに病的に「むくむ」ことになります。このような場合に、「むくむ」からと言って水分の摂取を制限してしまうと、脱水となり血栓ができやすくなります。適切な水分の摂取と、分娩後は早期の離床が血栓症の何よりの予防となります。

 下肢のむくみが強い場合や、静脈瘤がひどい場合、切迫早産や帝王切開などで安静臥床を強いられる場合は、弾性ストッキング(サポートタイプのストッキング)を着用し、血液のうっ滞を予防することが効果的です。長時間の飛行機やバス、車の移動では、サポートタイプのストッキングをはき、こまめに足を動かし、できる範囲の軽い運動とこまめな水分補給に心がけます。

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6.地震と血栓症
  2004年の新潟県中越地震では、車中に避難した被災者の30%、避難所に避難した被災者の5〜10%に深部静脈血栓が認められ、肺塞栓症による死亡者も相次ぎました。これは被災者が車の中で避難生活をしたケースが多かったことによります。

 東日本大震災において、いち早く宮城県内の避難所を回り、被災者を対象に血栓の有無を調べた新潟大学の榛沢和彦氏によると、宮城県の石巻市や南三陸町など約20カ所の避難所において194人のうち44人(23%)に血栓が認められとのことです。熊本地震においても、高齢者が多く、避難所生活が長引くことが避けられないため、今後血栓症及び肺塞栓症の新規発症例が増えることが危惧されています。症状がないために、気づかれていないケースも潜在的に多数あると思われます。妊娠されている方は特に注意が必要です。

7. 最後に
 血栓症・肺塞栓症は一度発症してしまうと生命への影響が大きいために、発症を予防することが大切です。しかし100%予防できるとは限らないため、軽微な症状であっても早めの医療機関の受診、ご相談が必要です。
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posted by 依藤 産婦人科医院 at 17:45| Comment(0) | 医療記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月26日

妊娠と静脈血栓・塞栓症A

前回の記事に引き続き、「静脈血栓・塞栓症」について解説します。
その後の熊本地震のニュースでも、血栓症の記事を見ない日がないほど、発症者が続出しております。
一方、症状がないために、気づかれていないケースも潜在的に多数あると思われます。
避難生活が長引くほど、発症者数の増加が見込まれ、心配です。

2. 静脈血栓症はなぜ恐いのか?
静脈の中にできた血栓が血液の流れに沿って飛ばされてしまい、肺の血管を詰まらせてしまうと(肺塞栓症)、急激に呼吸ができなくなり、最悪の場合突然死するケースもあるからです。

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3. 血栓症の原因
 血液が長時間流れにくくなること(血液のうっ滞)、血液が固まりやすくなること(血液凝固能の亢進)、帝王切開手術や分娩、打撲、外傷による静脈の炎症(静脈壁の損傷)が血栓症の主な原因です。長時間にわたり同じ姿勢をとり続けること、心臓の機能が弱った方、妊婦さんのように大きな子宮が下肢静脈の流れを阻害する場合では、血液の循環を悪化させ、血液のうっ滞につながります。脱水や水分摂取を控えることは、血液がドロドロになり(血液濃縮)、血栓ができやすくなります。また癌、経口避妊薬や更年期のホルモン補充療法で使われるエストロゲン製剤は、血液凝固能を亢進させます。妊娠すると非妊時よりも凝固能は生理的に亢進しており、妊婦さんは妊婦であるということだけで血栓症のハイリスクとなります。稀ではありますが抗リン脂質抗体症候群などの内科的病気は血栓症を起こしやすいことも知られています。

4. どんな症状を起こすのか?
 血栓を起こした側の下肢に痛みや、腫れ、むくみが生じますが、無症状のことも多く、突然の呼吸苦や胸痛などの肺塞栓症の症状で初めて発見されることもあります。飛んだ血栓の量が多く、広範囲に肺の血管を詰まらせてしまうと、心肺停止となり突然死します。

次回は血栓・塞栓症の予防法や地震と血栓症について、解説を加えます。
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posted by 依藤 産婦人科医院 at 21:32| Comment(0) | 医療記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月19日

妊娠と静脈血栓・塞栓症@

2016年4月14日、15日、熊本地方を震源とするマグニチュード6.5、7.3の地震が起こりました。
現在までに44名の方がお亡くなりになり、現在も9万4千人の方が避難しており、東日本大震災以来の惨事となりました。大変痛ましいことであり、謹んで哀悼の意と、お見舞いを申し上げます。

私は、東日本大震災直後に、津波により甚大な被害を受けた気仙沼市へ産婦人科医療支援として派遣され、現地の災害医療に携わりました。自然が持つ破棄力、大災害の恐ろしさ、不穏な雰囲気を肌で体感したこと、被災された妊婦さんや同じ被災者でありながら病院で働くスタッフに対して、どう接したら良いのか、躊躇し悩んだことなどを思い出しました。

一連の報道の中で、倒壊のリスクから屋内避難を避け、車中泊をされる方が大勢いらっしゃる記事を目にしました。 http://mainichi.jp/articles/20160418/k00/00m/040/102000c
阪神大震災や、新潟中越地震、東日本大震災では、静脈血栓症から肺塞栓症となり死亡するケースが相次ぎましたので、同様のことが起こらないか憂慮しておりました。そして本日、肺塞栓症による2名の死亡と28名の発症の記事を目にしました。http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/hotnews/int/201604/546608.html

今回から複数回に分けて、この「静脈血栓・塞栓症」をテーマに、妊娠や地震との関連を含めて、解説してみたいと思います。

1.静脈血栓症とは?

下肢などの静脈に血のかたまり(血栓)が詰まってしまう病気で、別名「エコノミークラス症候群」または「ロングフライト症候群」などとも呼ばれています。これは飛行機内で長時間同じ姿勢をとり続けることによって血栓ができてしまうためです。エコノミークラスとついていますが、実際にはビジネスクラスであってもリスクは同じで、2002年サッカー選手である高原直泰選手がビジネスクラスで発症しています。長時間の列車やバスでの旅行者、タクシーや長距離トラックの運転手などでも報告が多くあります。地震などの天災によって車の中で避難生活を送る被災者でも発症することが多く、阪神大震災や新潟中越地震では注目されました。同じ姿勢を長くとること、トイレを控えるために水分摂取を避けることが問題になります。

次回は、血栓症の恐さ、原因、症状について解説を加えていきます。
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posted by 依藤 産婦人科医院 at 23:22| Comment(0) | 医療記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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